■2016年度玄海原発避難訓練 見学監視報告


玄海原発住民避難訓練①:熊本地震を踏まえた訓練となったか

家屋倒壊と道路寸断により、屋内退避と避難路確保はできるのか

 

玄海原発プルサーマルと全基をみんなで止める裁判の会 永野浩二

10月10日に行われた玄海原発避難訓練。

今年4月に起きた熊本地震を受けて、初めて「地震によって原発事故が引き起こされた」という想定での訓練となりました。3.11から5年半経って初めてというのが驚きです。

熊本では「家屋倒壊の恐れで屋内退避が困難に」「避難経路が通行止めに」という事態となりましたが、原発事故との複合災害となった時に、これらの問題がどのように解決されるかが、山口佐賀県知事も明言する今回の避難訓練のポイントの1つでした。

原発から5~30キロ圏の玄海町諸浦地区の住民避難訓練の様子をレポートします。 (2016.10.24記)

 

 


【1】自宅倒壊で、町役場にて屋内退避

午前9時過ぎ、地震により自宅が倒壊したとの想定で住民40人が町役場4階の会議室に集まってきた。住

民の家は低い木造家屋が多いが、役場は鉄筋コンクリート。ここで「屋内退避」する。

●9:10、説明が始まる
佐賀県消防防災課の説明

「午前7時に県内で震度6弱の地震が発生。8時に原発で事故が発生となった。5キロ圏外のみなさんはすぐに逃げるわけではない。風によって変わるので、行政から連絡があって初めて30キロ圏外に避難する。緊急事態だからみんなが逃げるよということではない。カッパ、マスク、手袋を用意しているので、よろしければそういった格好で避難してください。」

9時10分は原子力緊急事態宣言が発出され、5キロ圏には避難指示が出され、30キロ圏には屋内退避指示が出される時刻。風向きなどは説明されないままに、「ただちに避難するのではない」ことを強調していた。また、放射能から「退避」のはずなのに、この場所自体が、外気をきちんと遮断していたのか特に意識されていなかったように思う。

職員が点呼して、名簿をチェック。参加予定者は全員そろったようだ。いざという時には、誰がここに来るのか把握しきれるだろうか。このように整然と点呼できるだろうか。

 

 

●住民の声

「土砂崩れが起きたりして、集合場所まで来れるもんか。さっさと逃げるよ。」

「今日は地震ということだけど、家の裏が川でそっちが心配」

「役場周辺はかつて浸水被害があったり、土砂災害危険区域に指定されている場所がある。わざわざこっ

ちに来ないよ」(消防団員)

地震による被害は広範囲の建物や道路に及ぶ。余震も続く中、安全に移動できるのか?避難場所自体が地震による倒壊や、土砂災害、浸水の危険性がないか?それも放射能が飛び交う中である。

 

 

【2】地震で通行止め発生、ルート変更で避難へ

 

●町職員から避難ルートについて説明

「避難所の小城市・ゆめぷらっとに12:10到着。弁当を食べて、13:20から知事、玄海町長、小城市長の挨拶があります。帰着は15時になります。」 現実には予定通りにいかないし、日帰りなどできないという話はない。

今日避難するのはバス1台と自家用車7台。職員が避難ルートの地図を運転手に配布して説明する。

地図には避難計画上のルートに一か所、バツがあり「地震により通行不可」と記されている。役場から反対方向へ向かって今日通ることになる代替ルートも書き込まれている。原発に近づく方向だ。

実際には、通行不能が1か所にとどまらないし、状況が刻々と変わる。熊本地震では一時470か所が通行止めになったという。代替ルートをあらかじめ地図で準備しておくことなど不可能だ。

住民から「乗用車7台もいらん」とクレームが出た。区長は町職員へ「ちゃんと説明ばせんけん」と。職員は黙って聞くばかり。訓練の段階でこんなにもめるくらいなので、実際はもっと状況がつかめず、困難を極めるだろう。

区長から本音が――「本なことになったときは、バスやら来んちゃけん」。

 

 

 

●放射能の中を、いざ避難開始

10:20放射線量上昇により避難指示。屋内退避しているうちに、放射能が役場にも襲ってきて、20マイクロシーベルト(μSv/h)を超えたので「避難指示」が出された。数値のアナウンスなどは一切ないが、この時点ですでに通常0.05μの400倍超になっているはずだ。

住民は庁舎入り口から数十メートル離れたバスへ、風が吹く中を外気に触れながら移動。

マスクは半分ぐらいの人が付けていたが、カッパ着用は1人だけだった。職員はみな普通の作業着だった。

 

10:40いざ出発。玄海町の道は結構な山道で、くねくねの道を行く。対向車線に大きな車が来た時に、こちらが待機することもあった。

避難車両が曲がる交差点4か所(金の手、トンネル前、竹木場、203号線交差点)には、警官がそれぞれ3人ずつ防護服姿で進路誘導していた。今日は7~8台の誘導だが、いざという時はどれだけの車が通ることになるのか。玄海町だけで6000人に住民がいる。渋滞や混乱は避けられそうにない。

住民の声「原発へわざわざ近づかないし、今日みたいな道は通らない」。

 

【3】安定ヨウ素剤、避難直前に配布

 

●職員から口頭で7分間の説明

 

 

出発前、女性職員から安定ヨウ素剤について説明があった。用意していたチラシが見つからず、口頭のみで。医師はもちろんいない。

「副作用があまり大きな薬ではないが、ヨウ素アレルギー、人工透析の方などは控えていただくことになる。13歳以上の人は2粒。3~12歳までは1粒。3歳未満はゼリーを配布する予定。30分ぐらいは具合が悪くなることがあるので、家族で様子をみあう必要がある。妊娠中の方も授乳中の方も対象者になるが、母乳の授乳を3日は避けてください。飲んで24時間で出て行く。早く飲んだからといって効果が持続するわけでもない。タイミングがとても大事。国からの指示に従って飲んでください。飲んでから避難します。今回は飴をこれから配るが、訓練なので服用しなくていい。粒が大きいので注意してください」

説明は7分で終了した。

●「副作用」などの話に住民から質問相次ぐ

住民「国が指示を出すというが、どういうふうに伝えられるのか」

職員「FAXで指示があって、すぐに放送する」

福島ではFAXが混乱の中で埋もれてしまい、指示が住民に届かなかった。その教訓は生かされるのか。

住民「飲んではいけない人という話があったが、それは個人で判断するのか?資料もないのか?」

職員「実際に配るときはチラシを配布する」

住民「飲んでいいのかどうか判断が難しい。副作用があるって知っているなら飲まない。飲んだらいかんもんは飲んだらいかん。問診した方がいい」

職員「緊急配布では問診はむずかしい。5キロ圏内の人にはしていますので…」

ここは30キロ圏。何の回答にもなっていない。

住民「ヨウ素は24時間で体外に出るのに、3日間授乳を避けるのは?」

職員「誰もが同じでないから」

女性たちからざわつく反応があった。3日間の断乳が母にとって、赤ちゃんにとって、どんなに辛いことか。

すぐにミルクに変えることはできないのだ。死ねというのとほぼ等しい。

チラシは後になって見つかり、出発前に配布された。

 

●だから事前配布が必要

 

国は安定ヨウ素剤を事前配布しない理由として副作用の恐れなどを挙げているが、事故直後に医師がかけつけることは不可能だ。住民からの不安の声は当然だ。熊本地震の教訓から学ぶなら、事前配布するしかない。

ヨウ素剤の実物を見たことがないという住民に、自分の手持ちのヨウ素剤を見てもらった。

「こんなに小さいのね。水と一緒に飲んだらいいんやろうか…」

「粒の大きい飴玉」ではなく、せめて実物の見本ぐらい住民に見せたらどうだろうか。それだけのこともやらない。国や県は「原発事故は大変だ」というのをなるべく可視化したくないのだ。

 

 

【4】避難先の小城にて、知事が語ったこと

 

●間違って、違う場所へ

避難先となっている小城ゆめぷらっとに、バスの到着が遅れた。避難計画で本来避難先となっている別の公民館に向かって行ったらしい。周到に準備してきた訓練でもこんなことが起きるのだ。

 

●“避難所運営ゲーム”~自然災害と同様に

今年の玄海町の避難訓練では、例年なされている「放射能安全講話」はなかった(伊万里では行われた)。代わりに行われたのが「避難所運営ゲーム」。私が同行した諸浦地区ではなく、先に避難所に着いていた5キロ圏内の平尾地区の住民が行っていた。

ゲームは6-7人のグループに防災士が一人入り、架空の名前と「風邪気味」「トイレが近い方がいい」などの特徴が記されたカードを使って、避難所内のどこのスペースに割り振るかをみんなで考えるグループワーク。「ともに考え、助け合う」避難所運営は確かに必要だろう。

しかし、このゲームを行っただけでは、「原発事故」を他の自然災害と一緒に扱うことで、放射能の危険性を住民に意識させず、九州電力による加害者責任を曖昧にするものではないか。

●佐賀県知事訓話

(出発前の玄海町役場にて)

「家が倒壊したら避難所に待機していただくので大丈夫。今、再稼働はされていないが、玄海原発がそこにあるので、玄海町のみなさんに寄り添って考えていきたい。」

(避難先の小城ゆめプラッツにて)

「昨日は町民運動会だったそうで、お疲れのところ、休みの日にすみません。みなさん、大変だっただろうと思います。すべてがうまくいくとは限らないので、様々なシミュレーションしながら考えているところだ。原発だけでなくて、風水害でいざという時にどうするか、お互いに考え、助け合いっていこう。県も20市町も信頼されるよう普段から取り組み、九電に対して言っているのと同じようにうそをつかずやっていきたい。みなさんの意見も踏まえてやっていきたい。」(拍手)

 

玄海町長も続けて訓話。

「ごくろうさまでした。小城市のみなさんにはご迷惑おかけします。県の方は、知事さんのおっしゃった通りですね(笑)。本当に安全で素敵な地域づくりを目指していきたい。エネルギー計画に沿った形で、安全対策をしていく。自分の体も年をとってきたが、体も原発もしっかり安全の方向でやっていきたい。」

訓練の全プログラム終了後、知事はそれぞれの地区の住民の輪の中へ入り、「諸浦は玄海の中でもセンター街ですよね~」などと談笑。緊張感のない会話を続けた。

知事は再稼働の権限を握っている。その判断によって住民が被害を受けるかもしれないのに、再稼働が自然となされるかのような言いっぷりだった。また、問題は「放射能から逃げる」ことなのに、自然災害と同じであるかのようにはぐらかした。

 

 

【5】突発的な事態に対応していない避難計画であることが明らかに

 

●玄海原発再稼働を認めてはならない

知事は直後の囲み取材で「様々な状況に対応するものにできた。改善する余地があればしたい。今回はあらかじめの想定があったが、突発的な事態に対応する訓練も考えてみたい」と述べた。

しかし、これまで見てきたように、熊本地震を踏まえた訓練というには過小想定で規模が小さく、「様々な状況に対応」できたとは到底言えない。また、知事本人が言うように「突発的な事態に対応」している訓練ではなく、「あらかじめ」決められていたスケジュール通りに訓練しただけである。

地震による家屋倒壊と道路寸断の中、屋内退避と避難路確保は非常に困難であること、現在の原発避難

計画には実効性がないことが、今回の訓練であらためて明らかになった。

他にも、病院・福祉施設等の要援護者の避難、学校児童の保護者お迎え、離島住民の避難、玄海町の住民避難ではまったく組み込まれなかったスクリーニング・除染等々、問題が山のようにある。

そもそも、佐賀県内30キロ圏の人口19万人のうち、住民避難訓練に参加したのはたった0.3%の745人にすぎないし、放射能からの避難ということがほとんど意識されていないような訓練では、あまりに現実とかけ離れている。

住民が放射能から安全に避難できることが担保されない限り、再稼働はありえない。

県民の命を預かる佐賀県知事は重責を自覚し、玄海原発の再稼働を認めてはならない。

 



【玄海原発避難②:玄海小・保護者引き渡し訓練 子どもに不安と悲しみをおしつけるな!】

玄海町役場、「玄海みらい学園」玄海小学校・中学校、避難先の小城の公民館などを見学。
中でも印象に残ったのは玄海小でした。生徒300人の町唯一の小学校です。


今回、初めて生徒の保護者への「引き渡し訓練」が行われました。
玄海原発30キロ圏の学校では事故が起きたら、すぐに親に迎えに来てもらうというのが基本となっています。避難指示が出たら、残る生徒たちはバスで避難。
今日の訓練では300人のうち50家庭の親が来るということになっています。
あらかじめ分かっている今日でさえこの数ですから、現実の突然の事故時にはどれだけ親が迎えに来れるのでしょうか。
逆に学校入り口は大渋滞になったりしないのでしょうか。

子ども達はロビーの床に座り込み、親が来るのをただただ静かに待っています。
親の車が到着すると、「引き渡しカード」と照合して一人ずつ呼び出されていきました。
それをただただ見つめる子ども達。
原発事故という得体の知れない恐怖の中で、親が迎えに来てくれるのか、すぐに会うことができるのか…
子ども達の不安なまなざしを見ていて、なんだか悲しい気持ちになりました。
原発からわずか5,6キロの地にある学校。
放射能はあっという間に襲ってくるかもしれません。
なのに、校舎のドアは開けっぱなし。
教職員は普段の恰好、マスクは誰もつけず。
放射能測定器も学校に備わっているのに、まったく使わず。

「放射能からの避難」ということがほとんど無視されているような訓練に、どんな意味があるのでしょうか。
自然災害とは違うんです!
だからこそ、私達が現場を見て問題点を具体的に指摘して、「問題は放射能だ!」ということを声を大にして言っていかねばならないと、あらためて思いました。



【玄海原発避難訓練③:車の除染はコロコロで!?】

伊万里市大坪地区の住民が太良町へ避難する途中に寄った杵藤クリーンセンターでの車の除染。
昨年、高圧洗浄した汚染水が飛び散ったり、タイヤの下に敷いたシートが破れて汚染水が地面に染み出たり、それはもう大変でした。
一応、汚染水が流れ出さないようにシートを用意してありますが、
「汚染水の処理が大変なので、今回は簡易除染という事で、水は使いません」
と言われ、バスも乗用車も「ふき取る」との説明でした。
「ふき取る道具は?」
「これです。」
「?、コロコロ?」
なんと、布でも、タオルでもなく、動物の毛を取る家庭用コロコロ!!
私たちの仲間が後で確認したところ「ひとふき300cpm」との事。
玄海原発避難訓練・除染風景より、じゅうたんコロコロ!でした。