【訪問介護ヘルパーが訴える~第5回口頭弁論報告】

11月9日、福岡高裁(久留島群一裁判長)にて、玄海原発全基差止控訴審第5回口頭弁論が開かれました。約40人の仲間が福岡高裁に傍聴に集まりました。

前回、裁判長は被控訴人・九州電力に対して、控訴人の主張と噛み合った主張を出すよう求め、今回九電は避難計画に関する準備書面2を出してきました。実質的なものとは言い難い内容であり、次回、私達控訴人は反論、意見書を出すことにしています。

 

控訴人側からは、訪問介護ヘルパーである永野浩二・本会事務局長が、在宅の介護現場の様子を紹介しながら原発避難が極めて困難であり、「最後まで自宅で暮らしたい」という高齢者の人生最後の願いを原発事故は粉砕するものだと指摘し、即時停止を訴えました。

 

今回、裁判長が交代しました。裁判官は世論の動向をみています。原発止めようの声をあげ続けていきましょう。 次回法廷への傍聴・注目をお願いいたします。

 

◆今後の口頭弁論

 

 2023年 2月 8日(水)14:30~第5回行政弁論

             15:00~第6回全基弁論

 2023年 5月31日(水)14:30~第6回行政弁論

             15:00~第7回全基弁論


◆裁判書面(全基)

ダウンロード
20221102玄海差止被控訴人準2●.pdf
PDFファイル 3.3 MB
ダウンロード
20221109控訴審陳述書永野浩二.pdf
PDFファイル 221.7 KB

陳 述 書

2022年11月9日

佐賀県佐賀市

永野浩二

 

佐賀市にある訪問介護事業所でヘルパー兼管理者をしている永野浩二と申します。

「住み慣れた地域、住み慣れた自宅で最後まで暮らしたい」という人生最後の願いを持つ高齢者や障がい者の日常生活のお手伝いをするのが私達の仕事です。利用者のみなさんの顔を思い浮かべながら、訪問介護の現場から思うことを述べます。

 

(1)

放射性物質は命を傷つける。だから、原発避難計画では、事故が起きたらできるだけ遠くへ避難する、避難が難しい場合は屋内退避するのが基本となっています。しかし、誰かの介護を必要とする方達は、速やかに安全に避難できるのでしょうか。避難先でそれまでと同じ支援を受けて生活を続けられるのでしょうか。

 

(2)

ある利用者の日々の生活を振り返ってみます。

一人暮らしの高齢者Aさん。病気や体のあちこちの痛みに耐えながら、何十年と住み慣れた自宅で最後まで暮らしたいと強く望んでいます。医師や看護師の定期訪問も受けながら、ヘルパーが1日2回、毎日交代で調理・食事介助、服薬管理、清拭、掃除・洗濯など生活に必要な様々な支援を行っています。ベッドから数メートル先にあるトイレには、痛みをこらえて立ち上がって、手すりや壁を伝って、なんとかたどり着きます。往復だけで30分かかることもあります。それでも、できることは自分の力に頼って動きたいのです。

身体が思うように動かなくなり、常時ベッド上で暮らすBさん。家族が仕事の合間にお世話をしながら、看護師、リハビリ士、ヘルパーがチームをつくって毎日支援に入っています。ヘルパーは、不安定な体温、血圧、酸素濃度を何度も測定して体調を確認し、ベッドの頭、背中、足の高さを動作ごとに微妙に調整して、食事介助、服薬介助、オムツ交換などを行っています。閑静な住宅街にあるきれいな自宅で、家族と毎日顔をあわせて暮らし続けたいのです。

 

(3)

もし原発事故が起きて避難となったら、Aさん、Bさんのような要介護者はどのような困難を強いられるでしょうか。

車への移動・乗降はスムーズにできるのか。放射能から逃れるため遠方への避難で道路は大渋滞、揺れる車中、長時間の移動に体は耐えられるのか。床ずれで褥瘡ができてしまわないか。避難先では、自分の体にフィットし、微調整のできるベッドがないと命にかかわる場合もあるのです。体調に合わせた調理や食事介助を誰がしてくれるのか。Aさんは以前、入院時に慣れない環境や食事で、食べ物が喉を通らなくなったこともありました。何種類もある薬を保持し、確実に服薬できるのか。馴染みのヘルパーは避難先に支援に来てくれるのか。ヘルパーにもそれぞれ、子どもや介護の必要な親、家族がいたりするのです。

屋内退避となったら、古い木造家屋で放射性物質を完全に遮断することはできるのか。飲料水や食料品などは、外は放射性物質が漂う中、誰が持ってきてくれるのか。

 

他にも、認知症を患い5分前のことを忘れてしまう方、視覚障がいのため見知らぬ場所への移動が非常に困難な方など、様々な利用者がいます。一人一人、必要な支援は違うし、日々体調は変化します。そういう人達が玄海周辺30キロ圏内外を問わず、自宅や施設にたくさんいます。東京電力福島原発事故では、避難途中や避難先の過酷な環境下で、多くの高齢者や障がい者が体調を崩したり、命を落としたり、置き去りにされたりしました。悲劇を繰り返してはなりません。

九州電力には、上記の疑問に答えるべく、支援が必要な一人一人の命を守るための具体的な避難計画の説明をしてほしいと思います。数合わせの机上の避難計画の表面的な説明はいりません。

 

(4)

今日この場にいるみなさんの周りにも、介護や支援が必要な方がいるでしょう。献身的にお世話をされている方もいるでしょう。身近な方の顔を思い浮かべて、原発事故が起きたら…と想像してほしいと思います。

避難した後は自宅に戻れるのでしょうか。放射性物質がまき散らされた土地は、もう帰れない場所になっているかもしれません、終の棲家と決めた我が家が!

Aさんは、毎年お盆に出す盆提灯を今年も飾り、家族一同集まられました。私達が数日ぶりに支援に入ると、盆前よりも元気になっていました。聞けば、「お盆で帰ってきた主人が『お前、しっかりしろよ!』って言ったのよ」 と頬を赤らめて言われました。我が家は、遠くに離れて暮らす家族も、天国にいる愛人も再び帰ってくる、再会の場所でもあります。「この家で最後までずっと過ごしたい」という、人生最後の願いを、原発事故は粉砕するのです。

 

人間の力ではどうしようもない自然災害と違って、原発事故は人の手で止められます。原発を動かさず、なくせばいいのです。どうか玄海原発を一刻も早く完全停止させてください。


◆報道