【「原発はもういらない、これこそ社会通念だ」~3/22佐賀地裁、全基差止・行政訴訟口頭弁論の報告】

 3月22日、玄海原発全基差止裁判第29回口頭弁論と、行政訴訟第21回口頭弁論が佐賀地裁(達野ゆき裁判長、田辺暁志裁判官、久保雅志裁判官)で開かれました。各地の仲間が傍聴にかけつけてくれました。

 今回は、材料力学を専門とする久留米高専准教授の青野雄太さんと、佐賀市の塩山正孝さんがそれぞれ原告意見陳述を行いました。

 青野さんは学生時代に感じた原子力への疑問などを振り返りながら、玄海1号機圧力容器の脆化問題で「予測式の誤り」が明らかになったにもかかわらず今も是認されている現状を「同じような話が原子力にはたくさんある。福島事故から何も学んでいない。今すぐやめるべきだ」と訴えました。
 塩山さんは「退職するまで社会問題への意識を何も持たずに生きてきた自分の目を突然覚ましてくれたのが3.11だった」と振り返りながら、佐賀地裁MOX不当判決や「社会通念」で原発を容認する最近の裁判例を批判し、「『原発はもういらない』ということこそ社会通念だ」と訴えました。原告をじっと見つめて陳述を聞き入った裁判長らの胸に届いたでしょうか。

 

 裁判の進行では、私たち原告と被告九電双方からこれまでの主張の概要が出されるなど、2012年12月に提訴した全基裁判は大詰めを迎えました。
そして、全基・行政ともに次回以降4回の裁判期日と、裁判官が内容をより深く理解するための「プレゼン」2回の日程が決まりました。その後、2020年春には証人尋問を行い、夏に結審、そして判決が出される見込みとなりました。
 玄海原発を止めるために、何としても勝利したいです!
 そのために、傍聴席をいっぱいにして、裁判官に私たちの「原発いらない」という意志を示しましょう!
 長い闘いとなりますが、みなさんのご注目とご支援を引き続きよろしくお願いします。

 

 法廷終了後、美浜の会代表の小山英之さんを囲んで使用済み核燃料の乾式貯蔵施設・リラッキングについて学習会を行いました。行き場のない放射能ゴミの問題の現実を、核燃料サイクルの破綻という大きな問題の中で捉えながら、今後の運動の方向を率直に話し合うことができました。
 放射能ゴミを、もうこれ以上つくらせないために、全国の原発稼働をみんなの力で阻止しましょう!

 

◆今後の法廷期日(佐賀地裁)
  7月12日(金)14:00~行政訴訟(第22回) 14:30~全基差止(第30回)
        ※13:20~入廷前アピール 13:30~進行協議(弁護団)
         15:00~記者会見・報告集会
  9月27日(金)14:00~行政訴訟 14:30~全基差止
 12月13日(金)14:00~行政訴訟 14:30~全基差止
  2月21日(金)14:00~行政訴訟 14:30~全基差止

 

<法廷プレゼン>
 10月1日(火)13:10~夕方
 10月25日(金)11:00~夕方

 

◆福岡高裁・再稼働差止仮処分抗告審は審理終了。近日中に決定が出る見通し(約1週間前に通知が来ます)。

 

※この活動は一般社団法人アクト・ビヨンド・トラストの助成を受けています。


■行政訴訟 原告意見陳述

陳 述 書

2019年3月22日

佐賀地方裁判所御中

住所 福岡県久留米市
氏名 青野 雄太

1. 自己紹介

 青野雄太と申します。久留米工業高等専門学校機械工学科准教授として勤務しています。私は九州大学工学部で機械工学を学び、大学院に進学・修了後、助手として働きながら学位を取得し、6年前に久留米高専に赴任しました。専門分野は材料力学で、材料の強度に関する研究をしています。

 

2. 学生時代の経験
 大学に入学する2年前にチェルノブイリ原発で炉心溶融、爆発事故が起こりました。この頃は原発の危険性は漠然と感じていましたが、特に強い関心はありませんでした。大学3年のとき、日本機械学会学生会主催で、玄海原発3,4号機の建設現場の見学という行事があり、同級生と参加しました。主にエネルギーパークを見学し、期待した実際の建設現場は何故か見ることができませんでした。九州電力の方からは「原発は絶対安全です」と繰返し言われ、帰りに友人と「あの言い方は怪しいね」と話しました。
 記憶が正しければ大学4年前期に原子炉工学大要という選択科目を受講しました。沸騰水型や加圧水型の原子炉の基本的な内容でした。いざとなったら圧力容器に水を入れれば大丈夫だ、と先生が話していたことを覚えています。福島原発事故では実際にそうしなければならない事態になりましたが、炉心は圧力容器から漏れています。どうすれば安全な環境にできるのか、いまだ見通しがなく汚染を止められません。同級生に会うと「大丈夫じゃなかったよね」と今でも話題にすることがあります。その後、西尾漠氏の「原発を考える50話」を読み、原発はやめるべきだと考えるようになりました。

 

3. 玄海原発1号機の脆化問題
 原発について自分でも調べるようになったのは玄海原発1号機の脆化問題を知ってからです。福島原発事故が起こる3か月ほど前、市民運動をされている方から「玄海1号機で脆性遷移温度が98℃になっているというがどういうことか、あなたは何かわかるのか」と聞かれました。現代の鉄鋼材料の常識的な脆性遷移温度は-10℃~-20℃です。初めて聞いたときは、この世にそんな鉄鋼材料が存在するのか、と驚きました。その後、東京大学名誉教授・井野博満先生を紹介していただき、原子力資料情報室が主宰する原発老朽化研究会に参加して勉強しました。最近、井野先生と京都大学名誉教授・小岩昌宏先生が共著で「原発はどのように壊れるか 金属の基本から考える」という著書を出版されました。この本に詳しい説明がありますが、ここでも概略を説明させていただきます。
 圧力容器の鉄鋼材料は中性子を浴びると、鉄原子がはじき出されて脆くなり、脆性遷移温度が上昇します。無傷であれば強い材料でも、一旦傷が入ると弱くなる場合があります。傷に対する強度が弱いことを「脆い」といいます。逆に傷に強い材料は、粘い、強靭である、または靭性が高いといいます。圧力容器は炉心を囲む重要な構造で、強靭である必要があります。圧力容器には監視試験片という容器自体と同じ材料でできた試験片が入っています。定期検査のときに適宜それを取り出して試験し、圧力容器が脆くなっていないか確認します。玄海1号機圧力容器の脆性遷移温度は運転開始前、-16℃でしたが、第4回監視試験片では98℃になっていました。圧力容器は30年以上中性子を浴び続けて脆くなってしまったのです。
 圧力容器の健全性評価は監視試験片のデータを確認するとともに、これから先の数年でどれくらい脆くなるか、という予測も行うことになっています。それにはJEAC4201という規格で示された予測式を使って行います。驚いたことに、第4回監視試験の元々予測されていた脆性遷移温度は56℃でした。実際はそれより42℃も高い98℃で、予測よりも極端に弱くなっていました。
 しかし、98℃という脆性遷移温度が得られた当時、九州電力は玄海1号機を運転継続しようとしていました。今回予測ははずれたが、42℃高い98℃の結果が矛盾しないように予測式を「改良」したから大丈夫だというのです。この時点で予測自体が破綻しており、今後の運転で安全と言える理屈はありません。高浜1号機でも同様に当初の予測を大きく超える脆性遷移温度が得られています。中性子照射脆化はまだまだ未解明の現象だということです。
 JEAC4201予測式は何度か改訂されていますが、当初は数十年分の中性子照射をわずか数日で照射した加速試験の結果を元につくられました。そして、実際の監視試験結果が増えるにつれて加速試験では予測できないことがわかってきました。最も新しいJEAC4201-2007では中性子照射脆化の物理現象を数式モデルで表現した予測式に改訂されました。しかし、2012年、当時の原子力安全・保安院が開いていた高経年化技術評価に関する意見聴取会で、予測式の求め方が物理的に誤っていることが明らかにされました。前掲著書には、誤りを発見した小岩先生と意見聴取会の委員であった井野先生によって、その詳細が述べられています。原子力規制委員会は、この誤った予測式を作成した日本電気協会に対し規程の再検討を指示しましたが、現在も是認したまま使われています。

 

4. 原発は今すぐやめるべき
 原子力規制委員会は脆化を予測できないのに予測と強弁しています。この脆化問題と同じような話が原子力についてはたくさんあります。福島原発では予測された津波高さより低い防波堤をつくり甚大な被害が生じました。しかし、火山の影響を受ける恐れのある原発でも再稼働が認められました。再稼働した玄海原発3号機は肉眼でも錆びたとわかるパイプから蒸気漏れが起こりました。結局、福島原発事故から何も学んでいません。過酷事故はいつかまた起こるでしょう。
 では、事業者が安全をしっかり担保すれば稼働して良いのか、というと、私は原発を今すぐやめるべきと思います。その理由については多くの方が説明していますが、ここでは持続可能でない点について述べます。ウラン燃料は長くて後100年で枯渇すると言われています。プルサーマルを併用すればそれが15%伸びると言われています。一方、使用済み燃料は使用前の1億倍の放射能をもつため、管理期間は数万年から数十万年に及ぶと言われています。危険なゴミの管理にかかる時間の方が圧倒的に長いにも関わらず、原発を運転し、さらにゴミを増やす理由はありません。6年前、ドイツに3か月留学させていただき、風力発電の現状を見る機会がありました。EUは自然エネルギー100%を目指してその利用を劇的に増やしています。自然エネルギーにもまだまだ課題はありますが、枯渇することはありません。また、原子力のようにその土地に住めなくなるような危険は一切ありません。今すぐに原発をやめ、自然エネルギーに舵を切るべきと思います。

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2019年3月22日 意見陳述 青野雄太さん
20190322意見陳述青野雄太●.pdf
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■全基差止 原告意見陳述

陳 述 書

2019年3月22日

 

佐賀地方裁判所 御中

住所 佐賀市川副町
氏名 塩山 正孝

(1)

 私はNHKドラマ「いだてん」の舞台になっている熊本県玉名郡和水町という田舎の町で生まれ育ちました。緑に囲まれたのんびりした自然環境でした。そして今、佐賀市川副町に移り住んでもう30年近くになります。こちらも同様にのんびりした町ですので、私と相性が合うのでしょう。
 社会問題への意識をあまり持たずに生きて来た私の目を突然覚ましてくれたのが、東日本大震災と福島第一原発の大事故でした。

 2011年3月11日、私と妻は長女の熊本への引越の手伝いに行った帰りの車の中でした。突然下の娘から「今、日本のどこかで大変なことが起きてるよ!」と電話がかかってきました。すぐにラジオのスイッチを入れ、東北地方で大地震が発生して、巨大津波が海岸に打ち寄せて大災害となっていることを知りました。二人とも非常に不安な気持ちで我が家に帰ってきました。
 そして、福島第一原発が全電源喪失したと。その後の政府の対応にはイライラと不安を募らせるばかりでした。原子力の専門家たちがテレビに何度も顔を出して「安全だ」と説明をしていましたが、結局メルトダウンという最悪の事態となったわけです。原子炉を冷却しようと、自衛隊ヘリ隊員たちが空中から数トンの水を決死の覚悟で命中させようとしていましたが、これが日本の原子力技術だったのかと国の無力さに全く呆れてしまいました。
 全国の皆さんと同様に私も被災地にペットボトル水を送ったり、寄付金を送ったりしました。被害に遭われた方々が家族や友達や家までも流されたり、まさに地獄に突き落とされた状況にある時、この自分も現地に行って少しでも役に立つことをしなくてはと考えていました。そんなある朝、妻が「原発反対の人たちが県の図書館前の公園でテントを張ってるって、新聞に書いてあるよ。読んでみんね」と教えてくれました。私はその記事を読んだ後、自転車でテントまで飛んで行きました。
 その日から自分の国の不条理さを少しずつ知るようになりました。そして、一社会人としてそれまでなんの問題意識も持たずに退職生活に突入したばかりの自分に転機がやってきました。玄海原発を止めるための行動に加わったのです。

 

(2)
 3.11から丸8年が過ぎました。しかし福島原発事故は今もそのまま続いています。今、オリンピックの話題で賑やかですが、この今も"原子力緊急事態宣言発令中"なのです。帰還困難区域の人達は故郷を追われて、今なお帰りたくても戻れない。自主避難した人達はとうとう住宅支援も打ち切られました。さらには離婚に至るケースも数多く聞かれます。原発事故が多くの人々の人生を狂わせてしまいました。お金では取り戻せないのが原発事故です。
 私は若い頃、福島に2~3度旅行で行ったことがあります。福島の自然はとても素晴らしいものでした。安達太良山に登ったり、スキーをしたり、夜には宿で友人と美味しい酒を飲んだり、あの緑豊かな山々の美しい姿は今も私の青春の思い出の中に生き生きと残っています。その大自然に放射能が降り注ぎ、山々は人間が犯した罪に無言で泣き叫んでいると思うととても悲しくなります。

 玄海原発でもあのような或いはあれ以上の原発事故は絶対に起きないと誰が断言できるでしょうか。国の原子力規制委員会でさえ事故は100%起きないとは言えないと"断言"しているではないですか。
福島原発事故の時は太平洋側に大半の放射能が風に流されて行ったから、東京など大被害に会わずにすみました。あの時、風向きが反対だったらどうなっていたでしょう。もし、玄海原発で同じような事故が起きたら、九州はもちろん西日本あるいはそれ以上の広範囲に被害が及び、日本が破滅状態となるのではないでしょうか。
 2016年の熊本地震では熊本市内にある妻の実家もかなりの被害を受けました。庭のブロック塀は将棋倒しで倒れ、家の中では台所の床が割れたお茶碗などで足の踏み場もなく、床の間では仏壇が倒れてめちゃめちゃになりました。隣の家の庭では断層が走っていたようで地面が直線状に段違いになっていました。あんな激しい地震が1度ならず2度も発生したら原発も絶対に大丈夫とはいえないでしょう。日本列島のどこで大地震が起きても不思議ではないことがもう一般常識となった現在、玄海原発を直撃する可能性も大いにあります。しかし、玄海原発だけは人の手で止めることができるのです。命にかかわることだから、原発は何として止めなければなりません。

 

(3)
 しかし、私達が原発をもう止めて欲しいと心から願っても、どうしても立ちはだかるものがあります。それは"司法の壁"です。
 2015年3月20日、この法廷でMOX燃料使用差止裁判の判決言い渡しを傍聴しました。裁判長が法廷に現れ、「訴えを全部棄却いたします」とさっさと言い渡すや否や、後ろの部屋へ戻って行きました。判決を待っていた私達は「えーっ」と力がなくなりました。
 その時私はつくづく思いました。日本は遅れていると。この原発問題では理不尽なことが如何に明白であっても、今の日本では裁判所に棄却されることがほとんどです。いくら裁判に訴えても期待できないというのが正直な気持ちです。3.11福島事故で日本人は何も学ばなかったのでしょうか。安心安全な普通の生活を守るために、あのような危険なものをなくす努力が日本人一人一人に必要なのではないでしょうか。特に裁判官のみなさんは私達市民の生活を左右する強い決定権をお持ちです。
 昨年9月の伊方原発再稼働差止についての広島高裁仮処分異議審決定は「社会通念」という言葉を使って、住民の訴えを退けました。「社会観念」という文言を初めて使って女川原発差止請求を棄却した元裁判官は、「原発事故なんてめったに起こらないだろうと私自身が考えていた。理論上は『世の中の人がどう考えているか』という点で判断するが、無意識に裁判官個人の考え方が影響する」「裁判官は原発などの政治的問題の場合、よほど世論が明確にならない限り、現状維持を選びやすい」と語っています。(2018年11月22日付毎日新聞)そうなのでしょうか。
 最近街頭などで反対のチラシを配る時に感じるのは、町行く人たちの反応が以前とは非常に違って来たということです。以前は「原発が止まると電気が止まるから困る」とか「経済に悪影響を与えるから」などの容認の声をちょくちょく耳にしていました。しかし、今そのような声が聞かれなくなりました。「原発はもう要らない」という社会通念にはっきりと変化したといえます。

 福島の事故で日本のみならず世界中の多くの人々が何かを学んだと信じています。この日本が安全で安心な国となりますよう、是非、フェアなジャッジメントを期待いたします。

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2019年3月22日 意見陳述 塩山正孝さん
20190322意見陳述塩山正孝●.pdf
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◆裁判書面(行政)

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被告 第20準備書面
2019年3月8日 被告提出:行政
20190308行政被告準20●.pdf
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被告 第21準備書面
2019年3月8日 被告提出:行政
20190308行政被告準21●.pdf
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原告 準部書面17
2019年3月18日 原告提出:行政
20190318行政原告準17●.pdf
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原告 準部書面18
2019年3月18日 原告提出:行政
20190318行政原告準18●.pdf
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◆裁判書面(全基)

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被告 全基上申書(主張の概要)
2019年3月7日 被告提出:主張の概要
20190307全基被告上申書(主張の概要)●.pdf
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被告 全基上申書(2号機廃炉)
2019年3月12日 被告提出:2号機廃炉
20190312全基被告上申書2号廃炉●.pdf
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被告 準備書面15(地震)
2019年3月8日 被告提出:全基
20190308全基被告準15(地震)●.pdf
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被告 準備書面16(火山)
2019年3月8日 被告提出:全基
20190308全基被告準16(火山)●.pdf
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原告 準備書面(21)
2019年3月8日 原告提出:全基
20190308全基原告21●.pdf
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