【2/21佐賀地裁報告】

2月21日、玄海原発全基差止裁判第33回口頭弁論と、行政訴訟第25回口頭弁論が佐賀地裁(達野ゆき裁判長)で開かれました。
戸田清さん(長崎大学教授)と堤静雄さん(久留米市)が原告意見陳述を行いました。
裁判前の学習会では、小山英之・美浜の会代表から「最大の争点、基準地震動過小評価について」、戸田清・長崎大学教授から「核発電について思うこと」をお話いただきました。

4月10・17日証人尋問、7月17日結審を経て、20年度中に判決の見通しです。
傍聴席をいっぱいにして、裁判官に私たちの「原発いらない」という意志を示しましょう!
みなさんのご注目とご支援を引き続きよろしくお願いします。 

◆今後の期日(佐賀地裁)

4月10日(金)10:00~証人尋問(行政)
4月17日(金)13:30~証人尋問(全基)
7月17日(金)14:00~行政結審
       14:30~全基結審


陳 述 書

2020年2月21日

佐賀地方裁判所 御中

住所 長崎市
氏名 戸田清

 

私は1956年生まれで、2010年の提訴以来、玄海原発の裁判の原告の一員です。1997年から長崎大学の教員をしており、環境社会学、環境思想、平和学などを担当しています。獣医師免許と社会学博士の学位があり、所属は文系ですが、理系的な観点も自覚的に取り入れています。妻、2人の息子、3人の孫(男1人、女2人)がおり、次世代の生活環境の行方については深い関心をもっています。私の著書に『環境正義と平和』(法律文化社2009年)、『核発電を問う』(法律文化社2012年)、『核発電の便利神話』(長崎文献社2017年)などがあり、原発問題にはそれなりの見識をもっているつもりです。

 

原子力発電と核発電
英語では軍事利用でも商業利用でもnuclearという共通の形容詞がつき、仏語や中国語でも同様なのに、日本語では「核兵器」「原子力発電」と使い分けていることに違和感があり、「核発電」という言葉もよく用いています。米国の原爆開発のマンハッタン計画では、ウラン濃縮工場から広島原爆(ウラン原爆)が生まれ、原子炉と再処理工場から長崎原爆(プルトニウム原爆)が生まれました。原子炉が原潜と原発に応用され、それに濃縮ウランが装荷されたので、原発は両原爆(ウラン原爆とプルトニウム原爆)の副産物と言えます。
私の理解によれば、原発には6つの神話があります。「安全神話」「必要神話」「低コスト神話」「クリーン神話」「平和神話」「便利神話」です。

 

小泉元首相の反省
小泉純一郎元首相は、福島原発事故とフィンランドの核のごみ施設「オンカロ」見学を経て、在職時代の原発推進政策を反省し「安全、低コスト、クリーンはみんな嘘だった」と述べています。「安全神話」、「低コスト神話」、「クリーン神話」に気づいたのでした。2013-2015年には「約700日の原発稼働ゼロ」(それで少しも困らなかった)があったので、「必要神話」も明らかになりました。自由民主党の岸信介氏が1960年の国会答弁で、安倍晋三氏が2002年の早稲田大学講演で「核兵器保有は違憲でない」と述べたことから想像されるように、自由民主党には潜在的核武装への欲求が流れており、核兵器と平和利用は別のもので、無関係であるという「平和神話」の誤りも明らかになりました。彼らは、「原子力ムラ」という言葉に象徴される業界の利権構造の維持だけでなく、「核兵器を作れる」というメッセージも出したいのでしょう。またその業界にしても、「不都合な町長の暗殺計画」まであったというから驚きです(斉藤真『関西電力「反原発町長」暗殺指令』宝島社、2011年)。

 

便利神話
「便利神話」というのは私の造語でありますが、原発を使うのが約150年(1950年代に始まり、22世紀初頭におおむね終結する)であるのに、核のごみ(高レベル放射性廃棄物)の安全管理に10万年(あるいは100万年)もかかるのが、本当に便利と言えるでしょうか。事故調査が困難であり、高線量のため何十年も事故を起こした炉心に近づけないのが、本当に便利と言えるでしょうか。事故調査ができなければ、技術の改善もありません。過酷事故では、事故炉周辺の市町村が何十年も居住不可能になります。熱効率(熱から電気を取り出す効率)が悪いために、火力発電に比べて、同じ発電電力量に対して2倍程度の排熱(温排水)があるので、工学者の冨塚清博士に「退歩の感あり」と評された原発が、便利と言えるでしょうか。発電時には炭酸ガスを出さないが、「熱汚染」は火力発電よりも大きい原発が、地球温暖化対策に役立つと言えるでしょうか。大型石炭火力発電所が供給する大量の電力に依存するウラン濃縮工場が、地球温暖化対策に役立つでしょうか。1950年代にうたわれた「原子力産業革命」もやっぱり幻でした。自動車、鉄道、飛行機、船舶、工場、家庭などの「原子力化」は不可能で、「実用化」したのは原潜、原子力空母、原発(周辺的に原子力砕氷船)だけです。

 

10万年のごみと将来世代
「核のごみの管理」に10万年もかかることは、原子力規制委員会が2016年に公式に認めました。『朝日新聞』2016年9月21日付けの「いちからわかる! 原発ゴミを10万年間国が管理するんだって?」という記事がわかりやすく解説しています(戸田2017年、36頁に転載)。放射能レベルの高い最初の300-400年間は九州電力(などの電力会社)が管理し、そのあとの10万年は国が管理するということです。プルサーマル発電の使用済みMOX燃料は発熱量が大きいので、困難が増すでしょう。まぐろ漁業の町大間で建設中の大間原発は、「世界初のフルMOX」という無謀な試みです。デンマークのミカエル・マドセン監督の映像『100,000年後の安全』(2009年)も「10万年」の大変さを描いています。フィンランドは「10万年の管理」で、日本もそれにならっていますが、米国、ドイツは「100万年の管理」を義務づけています。人類とチンパンジーの分岐が700万年前、現生人類(ホモ・サピエンス)の誕生が20万年ないし30万年前とされています。10万年前の世界といえば、ホモ・サピエンス、ネアンデルタール人、デニソワ人など「複数の人類がいた時代」でした。数万年後には、次の氷河期がやって来ます。10万年というのは、気が遠くなるほど長い年月です。20世紀末から「世界の原発400基あまり」が続いていますが、22世紀初頭に稼働している原発は僅かでしょう。フィンランドほか多くの国が、22世紀初頭の原発稼働終了を想定していると思われます。それからの10万年です。島田虎之介の漫画『ロボ・サピエンス前史』(講談社、2019年)が描いているように、「核のごみの10万年管理」という「退屈だが不可欠な仕事」は、ロボットに任せるとでもいうのでしょうか。

 

「チェルノブイリ」と「フクシマ」
チェルノブイリのような過酷事故の健康影響は当然深刻です。チェルノブイリで国連などによって公式に因果関係が認められたのは、子どもの甲状腺がん、作業員の急性放射線症、作業員の白血病だけと言われていますが、ウクライナ政府やベラルーシ政府も示唆するように、白血病、心臓病などさまざまな健康影響との関係も考慮すべきではないでしょうか(アレクセイ・ヤブロコフほか『調査報告 チェルノブイリ被害の全貌』星川淳監訳、岩波書店、2013年、など参照)。福島第一原発事故の健康影響の調査も、適切になされるかどうか、心もとない状況です(日野行介『福島原発事故 健康管理調査の闇』岩波新書、2013年、など参照)。

 

平常運転でも健康影響
欧米先進国では、平常運転でも原発周辺住民への健康影響が示唆されています。有名なのはドイツのKIKK研究(2008年)で、原発10キロメートル圏の小児がん、白血病のリスクの増大が報告されています。米国の故ジェイ・グールド博士らのグループは、米国の多くの原発の80キロメートル圏で乳がんリスクの増大を報告しています(ジェイ・グールド『低線量内部被曝の脅威』肥田舜太郎、斎藤紀、戸田清、竹野内真理訳、緑風出版、2011年)。グールドの共同研究者であるマンガーノ氏も、「原発閉鎖後の40マイル圏(64キロメートル圏)の小児がん発生率の減少」などを報告しています(ジョセフ・マンガーノ『原発閉鎖が子どもを救う』戸田清、竹野内真理訳、緑風出版、2012年)。森永徹博士は、玄海町などで白血病が多いことが、風土病(ウイルス性白血病)や高齢化だけでは説明できず、トリチウム放出(玄海原発はその放出量が全国最多)の影響もあるのではないかと示唆しています。西尾正道医師も泊原発近隣で白血病が多いこととトリチウムの関連を示唆しています。トリチウムは放射性水素なので、体内のさまざまな有機化合物に重大な影響を及ぼすこともありうると西尾医師は指摘します。韓国の一部の原発でもトリチウムの排出量が多いと指摘されていますが、加圧水型およびカナダ式重水炉(CANDU)があるためと思われます。韓国でも健康影響の調査が必要でしょう。


原発再稼働(とくに実効性ある避難計画の欠如とプルサーマルによる危険の増幅のもとで)は疑問であり、玄海原発の廃炉を望んでいます。

 

 

※脱原発弁護団全国連絡会「2月の原発裁判」『週刊金曜日』2020年1月31日号10頁参照。
 備考 「原発問題の入門書」としてもっともわかりやすいのは、高木仁三郎『原子力神話からの解放』(光文社カッパブックス2000年)である(講談社+α文庫、七つ森書館高木仁三郎著作集第3巻所収)。

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20200221意見陳述戸田清●.pdf
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陳 述 書

2020年2月21日

佐賀地方裁判所 御中

住所 久留米市
氏名 堤 静雄

 

久留米の一市民である私に意見陳述の機会を与えて下さった裁判官の皆さんに感謝します。
私は大学の数学科(専攻は位相解析)を卒業し、2007年に高校数学の教員を定年退職しました。

 

1  福島の宇野さんからのメール

2011年3月11日の福島第一原発事故発生からわずか2,3日後に、私は福島の宇野朗子さんからメールをもらいました。それには「全国のみなさん、私達の原発反対運動が弱かったために全国の皆さんにご迷惑をかけました。すみません。」とありました。東京電力の社長でもなく、経産省の大臣でもなく、それまでずっと福島県庁で原発反対のアピールを続けて来られた宇野さんからの謝罪のメールです。宇野さんは福島第一原発を止めて事故を防ぐということができなかった自分の非力を詫びているのです。私はこれを読んで、驚きと緊張で全身が寒くなりました。そして、ささやかなりとも原発に反対して来て良かった、玄海原発反対の署名を数人集めた程度の些細な運動ですが、していて良かった、もし反対してなかったら、宇野さんに対して生きて行く資格が無くなるところだったと思いました。そして、これからは、原発反対に頑張ろう、孫とゆっくりと遊ぶことも、趣味のピアノの練習をすることもあきらめようと決意しました。(宇野さん:2012年8月17日玄海全基差止裁判第2回口頭弁論 原告意見陳述者)

 

2 市民運動の組織ができる

福島第一原発事故発生の年の9月に、私が心待ちにしていた「さよなら玄海原発の会・久留米」という市民団体が結成されました。結成したのは井上義昭さんでしたが、翌年に病気で亡くなられたので、以来、会の代表を私が務めています。

 

3 久留米市内のポスティング
 会として、講演会や映写会を時々しています。特徴的なことは、久留米市内の全家庭に原発反対のチラシ配布を計画したことです。当初、人口30万人の久留米市を全部回ることは、自分が生きている間には無理だろうと思っていましたが、多くの会員の協力で昨年の11月に目的は達成できました。今は、久留米に隣接する小郡市や佐賀県のみやき町などにも配布しています。配布の途中、玄関先や庭先で出会う方からは、よく「お疲れさん」とか「お世話でございます。」という言葉をもらい、国民の多くが原発には反対であることが実感できます。つい先日には拍手をもらいました。その間、会員が増えるという良い成果もありましたが、自宅に変な電話もかかってきました。「このチラシ配布は違法行為なので、証拠としてこのチラシを警察に提出する」、「俺の家にこんなチラシを入れるな」とも言われました。今後は入れませんからお名前をと訊くと、「お前に名前なんか教えられん」と言われたので「それでは次回に省くことができません」と言うと、しぶしぶアパートの名前を言われました。「原発が全部止まって電気が足りなくなったらどうする」と恐い声の電話もありました。当時は全部止まっていたので、その旨を言うと、「本当か、お前は全国の原発を回って確かめたか。」と言われたので、確かめてはいませんが、疑われるなら新聞社に電話してください、どの新聞社でもいいですよ、と言いました。そうすると彼は話題を変えました。電気料金のことや温暖化のことも言われたので、長い時間をかけて丁寧に説明しました。そうすると、「匿名の電話をしてすまなかった」と小さな声を最後に電話を切られました。

 

4 久留米もトリチウムの被害
 久留米は玄海原発からおよそ70kmです。元純真短期大学講師の医学博士の森永徹さんが玄海原発と白血病の関係を調査されました。(発表は、2015年7月 日本社会医学会総会)もともと、佐賀県、特に佐賀県の沿岸部は白血病が多い地域でした。それは、原発とは関係ないHTLV-1ウイルスによる成人T細胞白血病が沿岸部に多いからです。森永さんはその影響を差し引いて、玄海原発の稼働開始の10年後から玄海原発の周辺では近いほど白血病が増えていることをつきとめました。それによると、人口30万人の久留米市では玄海原発の稼働で毎年6人が玄海原発が排出するトリチウムで亡くなっていることになります。久留米も決して玄海原発の被害と無縁ではありません。このことを広く久留米市民にも知ってもらいたいので、トリチウムの学習会をしたいと考えています。トリチウムはたまり続ける福島第一原発の汚染水をどうするかを考えるうえでも重要なテーマです。また、この1月に、たんぽぽ舎からもらったメールによると、伊方原発の付近でも白血病が増えているそうです。原発の中でも加圧水型の原発は特に多くのトリチウムを輩出しているので、同じ加圧水型の玄海原発も早く止めて欲しいです。つい先日、北海道電力が泊原発で31年間も排気しているトリチウムの量を半分として報告していたことが露呈して社長以下取締役会が謝罪会見を開いた、と北海道の仲間から連絡がありました。九州電力は大丈夫でしょうか。

 

5 汚い方法で補償費をけちる東電
 原発から避難している福島の人は、東電との補償交渉の席で、東電の社員から「税金から出るお金なのですよ」と言って値切られるそうです。(NHKテレビ「廃炉への道」16年11月6日)これは何ということでしょうか。福島第一原発事故による補償金は東電が工面すべきなのです。それを国に建て替えてしてもらっているのです。それなのに国民の税金から出ることを理由として値切るなんて人間として許されない発言です。しかし、東電の個々の社員の方は悪気はないのかもしれません。東電そのものの姿勢が根本的に誤っているから、自分たちの暴言に気づいてないのでしょう。社員を人間として誤らせていること、これも東電の罪です。東電には3つの誓いというのがあるそうです。(「原子力資料情報室通信」19年3月)①最後の一人まで賠償貫徹 ②迅速かつきめ細やかな賠償の徹底 ③和解仲介案の尊重。私にはどれも守られてないようで、読んでいるこちらが赤面したくなります。企業は利益を追い求めるだけではなく、社会的な責任を果たすことも求められる時代です。この社会的な責任は私達との話し合いの場を、いろいろ難癖をつけて設けようとしない九電にも求めたいと思います。

 

6 未来への責任
 江戸時代から続く久留米市のある酒造屋には「この世は子孫からの借りたもの」と壁に貼ってあります。素晴らしい言葉だと思います。面白いことに、この言葉は、日本から遠く離れたアメリカの先住民にもあるそうです。私達がこの地球に生きていられることは、たくさんの偶然に支えられています。その一つは水が低温になるほど重くなるのではなく、例外的に4℃の水が最も重く、それより下がると逆に軽くなることです。この例外的な性質がなかったら氷は海底から凍り始め、海底での生物は生存ができなくて、人類が地球に誕生することが無かったでしょう。このように偶然に守られている地球環境を人類のエゴで壊していいはずがありません。

 

7 裁判所は正義の砦
昔、テレビで水戸黄門という番組がありました。その中では毎回のように不正を働いて金儲けする悪人が登場し、藩の要職にある役人とグルになって善良な町人や村民を苦しめていました。しかし、番組の最後には必ず黄門様が登場し、悪人たちを成敗していました。今の日本はどうでしょうか。今の日本は法治国家です。黄門様のようなスーパースターが突然現れて不正を正す時代ではなく、裁判所が事実と科学的な論理によって不正を正すべき時代です。是非、三権分立の1つである裁判所が正義を取り戻してください。
どうぞよろしくお願いします。

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20200221意見陳述堤静雄●.pdf
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◆裁判書面(行政)

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20200207玄海行政原告準22●.pdf
PDFファイル 1.0 MB
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20200207玄海行政被告26準●.pdf
PDFファイル 2.9 MB
ダウンロード
20200207玄海行政被告27準●.pdf
PDFファイル 1.9 MB

◆報道