【「裁判官は原発を止める決断ができる。決断を!」/4月証人尋問、7月結審へ~12/13佐賀地裁報告】

12月13日、玄海原発全基差止裁判第32回口頭弁論と、行政訴訟第24回口頭弁論が佐賀地裁(達野ゆき裁判長)で開かれました。
各地の仲間が傍聴にかけつけてくれました。

原告側は、争点の1つ、火山問題で書面を出しました。
「破局的噴火は、社会通念として想定しなくてよい」とする九電と国の「社会通念論」に対して、そもそも社会通念を判断基準にすることが誤りであること、さらに社会通念の捉え方が誤っていることを、「天災は忘れた頃にやってくる」という言葉も紹介しながら、国民の社会通念は「脅威を正しく理解し、その適切な措置をとりたい」というものだと主張しました。

 

また、福岡市の山中陽子さんと佐賀大学元教授の豊島耕一さんが原告意見陳述を行いました。
山中さんはチェルノブイリ事故後、安全な食材を求めて奔走し、脱原発グループを立ち上げた時のことを振り返りながら、「人の手に負えない原発を止める決断ができるのは、電力会社、政府、設置自治体の長、そして裁判官だけです」と訴えました。

 

豊島さんは原子核物理学の専門家として、チェルノブイリ事故後に出版した「緊急対策マニュアル」が3.11前には絶版となっていたことを悔やまれながら、「福島事故では放射能災害、健康被害の実態が隠蔽されている。原発は世代間倫理に反し、あらゆる点で不適切不道徳だ」と訴えました。

 

来年4月に証人尋問、そして7月17日に結審するということが正式に決まりました。

傍聴席をいっぱいにして、裁判官に私たちの「原発いらない」という意志を示しましょう!
みなさんのご注目とご支援を引き続きよろしくお願いします。

 

◆今後の期日(佐賀地裁)
2月21日(金)13:20~入廷前アピール
       14:00~行政訴訟(第25回)

       14:30~全基差止(第33回)
       15:30~記者会見・報告集会
4月10日(金)10:00~証人尋問(行政)
4月17日(金)13:30~証人尋問(全基)
7月17日(金)14:00~行政結審
       14:30~全基結審


陳 述 書

2019年12月13日

佐賀地方裁判所 御中

住所 福岡市西区
氏名 山中 陽子

 

1)
 今日は意見陳述の機会をありがとうございます。山中陽子と申します。玄海原発、唐津方面からの道路の渋滞を日常的に経験している福岡市西区に住む66歳です。
 原発問題に関わったきっかけは1986年4月26日のチェルノブイリ原発事故です。子どもたちが5歳と7歳でした。8000キロ離れた日本でもヨウ素が検出されて親たちの心配は並々ならぬものでした。事故から2ヶ月経った頃、ヨーロッパの幾つもの箇所でセシウムが集中しているホットスポットがあると報道されました。その時、我が家はドイツ、ミュンヘンへの1年間の留学が決まっていましたが、そこにもホットスポットがあったのです。チェルノブイリから1200キロも離れていたのにです。
 それからやったことは福島で途方にくれた親御さんたちと同じです。食べ物は、外遊びは、どんな服なら?今のようにインターネットがあるわけではなく、どうやって見つけたか、京都の反原発グループのパンフレットを頼りに出発したのです。
 それは事故から1年経って、当時の穀物が店頭に並ぶ頃でした。情報を求めて市民の集会に行き、環境研究所を知り、そこの放射能測定結果リストがバイブルとなりました。肉、卵、パン、野菜、牛乳。あらゆる食材から放射能が検出されているので、タンパク源として日本から大豆を送ってもらい、五目豆を食べて1年を暮らしました。ハムもソーセージも牛乳もだめ。今も五目豆だけは作る気になれません。
 こんな暮らしはあってはいけないと、帰国後は原発の学習会に顔を出しているうちに同じ思いの母親達と出会い、脱原発を目指す「たんぽぽとりで」というグループを作ることになりました。今から30年前のことです。
 たんぽぽとりででは学習や、講演会・上映会の開催、年に10回の通信を発行して会員約70名を通してメディアにはなかなか載らない原発の情報を発信してきました。反対を言うだけでなく、原発なしでも困らない暮らしを提案したいと「省エネ」「自然エネルギー」に着目、2000年から太陽光発電の普及に関わることも始めました。出資方式でお寺に1つ、国の補助金受給と寄付集めを代行して4つの幼稚園に太陽光発電を設置しました。その後、311の原発事故が起き、固定価格買取制度が導入されて個人でも無理なく設置できるようになり、この仕事はやめました。私たちが関わる以前、3キロワットの太陽光発電は800万円以上していましたが、それを心ある市民が自腹をきって普及させてきたのです。電力会社の重役は「自然エネルギー?おもちゃみたいなものです」といって憚りませんでした。それがいまでは太陽光からの購入を断らなくては原発が動かせないほどの力を持つまでになったのです。
 311の事故後は「放射能市民測定室・九州」の設立運営に関わっています。これまでに1250体の測定を行いました。いまでも福島はもとより、東京の土からも漏れなく放射能が検出されとても辛いです。東京に住んでいる友人、知人、こどもたちに伝える言葉が見つかりません。

 

2)
 原発はこれまでの意見陳述でも語られているように、ウランを取り出すところから、運転中、使用済み燃料、廃炉の後始末のどこを取っても危険と汚染の金太郎飴で、このことは311の事故で誰の目にもはっきりしました。今年の九州電力株主総会で社長は二酸化炭素を増やさないために原発は絶対必要だと述べていましたが、その九州電力が新しく作った70万キロワットの松浦火力発電所は二酸化炭素排出の元凶のひとつの石炭火力なのです。彼らは石炭という言葉を資料には載せていません。
 私たちは原発について学んでいたので、311のあの日、送電鉄塔が倒れ、停電になったと聞いてすぐに甚大な被害が出ることを予想しました。移動電源車が派遣されたと聞いて間に合うことを手に汗握って祈りました。地震で交通が遮断され、たどり着かないと知った時のおそろしさ。不安は的中し、炉心の冷却できず、爆発し、放射能は風向き通りに流れ、雪の降っていた地方に大量に落ちました。お友達作戦で太平洋に来たアメリカの軍艦は放射能の雲に直撃されて、兵士が白血病や放射能由来の病気に苦しんでいます。

 

3)
 今年9月の台風16号で千葉県は長期の停電を余儀なくされましたが、もしそこに原発があったら同じような事故になっていたと思います。規制委員会の指導で非常用電源設備は設置されているはずですが、それは1週間以上は持ちこたえません。
 津波だけでなく、地震も火山も大きな危険因子です。玄海原発の基準地震動は建設当時370ガルだったものが今回改定されて620ガルになるそうです。実際は大した耐震工事はなされておらず、当初から余裕を見て数字を出していたから大丈夫だと九電では説明されます。しかし、三井ホームは5115ガル、住友林業は3406ガルに耐える家を作っています。620ガルはその5分の1。大丈夫と言えるでしょうか?
 火山については言わずもがな。火山学会が予知できないと明言している噴火を一電力会社に過ぎない九州電力は可能と言います。カルデラ噴火のような大規模噴火になったら動物も植物も壊滅しますが、時を経て再びこの地にやってきてミネラル豊富な土地の恩恵を受け、繁栄します。しかしその土壌に長寿命の人工放射能が混ざっていたら、広範囲にわたる死の土地となってしまいます。会社はそこまでの責任は取れない。しかし、今ならまだ未来の被害を小さくできます。
 原発格納容器の設計をしていた後藤政志さんが講演会で、原発の根本的危なさを言い表されました。「他の全てのものは壊れても収束へ向かうが、原発だけは違う。核というものはその途方もないエネルギーを抑えて抑えてコントロールしてやっと利用できているものであって、コントロールが解かれたら本来の膨大なエネルギーを開放する方にしか行かないのだ」と。
 規制委員会の皆さんにこそ、この重い現実を真剣に受け止めていただきたいと思います。どうして免震重要棟をやめた上に緊急時対策所を「代替」施設で済まさせ、特定重大事故等対処施設の建設に5年もの猶予を与えるのでしょうか?その一点だけでも、あの方々は職務を全うしていると胸を張っておっしゃるのでしょうか。増える一方の自然災害がいつどこでどういう規模で起きるか誰にも予測できない、地球はいま、そう言う段階にきているのに。

 

4)

 9月19日の東京地裁の東電役員の責任を問う裁判で、永淵健一裁判長は「津波についてあらゆる可能性を想定し、必要な措置を義務付ければ、原発の運転はおよそ不可能になる」と述べました。そうです。原発は運転してはいけないのです。
 シーメンスというドイツの原発を作っていた会社は原発から撤退し、風力発電に力を入れるようになりました。そこで勤めていた知人の言葉が心を離れません。「日本のように科学の進んだ民主的な国でも原発事故を収束させることができなかった。自然の前に人間は無力で、一度コントロールを外れたら、原発をコントロールすることはできないのだ。だからドイツは原発を止めることにした」と。
 人の手に負えない原発を日本も止められますか?決断できるのは、電力会社、政府、設置自治体の長、そして裁判官だけです。
 奇跡の宇宙の無類の地球に奇しくも生を受けた人間の一人として、未来の地球の生きとし生けるもののため、コントロールできない原発から手を引く決断をこの裁判にお願いして陳述を終わります。 
ありがとうございました。

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陳 述 書

2019年12月13日

佐賀地方裁判所 御中

住所 福岡県久留米市
氏名 豊島 耕一

 

 私は豊島耕一と申します。福岡県久留米市に住んでいます。九州大学理学部で原子核物理学を専攻し、理学博士の学位を取得しました。久留米大学放射線治療センターに3年勤務した後、佐賀大学で31年余りにわたって、物理学の教育と研究に携わってきました。私自身の専門が原発の技術の中心にある核反応や放射線と直接関わりがあるため、核兵器の問題とともに原発にはこれまで強い関心を持って来ました。ここでは主にその専門の立場から意見を述べます。

 

チェルノブイリ原発事故と緊急対策マニュアルの出版
 1986年のチェルノブイリ原発事故は私にとっても大変な衝撃でした。原発が動いている限り日本でも起こりうるし、そのリスクが存在する以上、万一の時の市民レベルでの対処法の知識が不可欠です。またそれを提供することが科学者の責任でもあると考え、その3年後に仲間と原発事故対策マニュアルを出版しました。とは言え私も、日本の原発はソ連とは原子炉のタイプが違うから、あれほどひどいことにはならないだろうと思っていました。しかし福島原発事故を目の当たりにして、この考えは全く浅はかだったと言わざるを得ません。
 その「マニュアル」も数年で絶版となり、そのまま放置していたところに福島原発事故が起こったのです。急遽、出版社の同意を得て、事故の6日後に全部をネット上に公表しました。しかし事故4日後の15日の早朝に放射能プルーム(放射能を含む大気の塊)が関東圏を襲いましたので、これには間に合わなかったことになります。絶版状態で事故を迎えてしまったことと併せ、悔やまれます。このマニュアルは、同じグループで急遽改訂版を作り、事故から2ヶ月後に出版しました。

 

首都圏を襲った放射能プルームは知らされず
 放射能プルームが関東圏を襲った翌日の16日に、福岡のテレビ局のスタジオに招かれ、その前夜にスタッフと長時間の打ち合わせをしましたが、その時に、米軍横須賀基地の周辺の空間線量のデータを見せました。ネット上に公開されているもので、先に述べた、まさに15日朝の線量の急上昇を示すものでした。平常値の毎時15ナノグレイだったのが急上昇し、朝5時20分から1時間半は毎時100ナノグレイの最大目盛りを突き抜けています。スタッフの人たちは衝撃を受けたようでしたが、結局この重大な事実に放送では全く触れませんでした。首都という人口密集地の多数の人々を襲う放射能プルーム、この放射線に被曝するかどうか、放射能の塵を呼吸するかどうかは、後に述べるように、確率的・統計的に、首都圏の人々の健康に大きな影響を及ぼしたはずです。このような事実をメディアが隠さなければならないということに、放射能被害の恐ろしさを感じずにはいられません。

 

高崎市の観測所が記録した関東圏の大気中の放射能
 放射線量だけでなく、空気中の放射能濃度も関東圏で高い値が記録されています。これは、福島原発事故の直後から群馬県高崎市にある核実験監視のための放射能観測所が継続的に発表していたデータに見られます。それによると、ピークを記録した3月15日※1 の濃度は、セシウム137と134だけで1立方メートル当たり12.6ベクレルです。単位にミリもマイクロも付きません!そしてこれは平常値つまり事故の前の濃度のなんと1億倍にもなります。ひと月ほどで濃度は下がったとはいえ、100ミリベクレルから数十ミリベクレルの状態が何年も続きました。最近でも、福島県では2017年の平均値として、福島市の0.057ミリベクレル、双葉郡大熊町ではその一桁上の0.36ミリベクレルという値が記録されています※2 。これらは事故前の濃度の100倍から1,000倍で、大気圏内核実験の影響が残る1970年代の値に匹敵します※3 。呼吸によって体内に取り込まれた放射能は、長期間にわたって内部被曝を引き起こします。体内に仕組まれたミクロの時限爆弾となるのです。

 

危惧される広範な健康被害
 福島原発事故による直接の被害を最も被ったのは、いうまでもなく原発周辺を中心とする福島県民ですが、その放射能被害でさえ、例えば子供の甲状腺ガンのようにメディアから無視されています。しかし関東圏の住民という巨大な被曝集団については、その影響について語られることさえありません。ここで私が関東圏の放射線、放射能の状況を取り上げたのは、これが常識に反する異常なことだからです。
国際放射線防護委員会(ICRP)は「集団線量」、つまり、被曝線量をある人口集団で積算した量を定義しており、集団への放射線による健康への確率的影響の尺度としています。さらに、この確率的影響は「線形・しきい値なしモデル」、つまり低い被曝線量であってもその線量に比例して影響が表れるものと想定しています。
 この世界的に権威を持つ機関の想定に従えば、一人一人の線量が低くてもその人数が多ければ、集団線量に応じて確率的に必ず健康被害が表れるということです。これに基づく推定計算がいまだに見られない、公表されないことも、大きな隠蔽の一つだと思います。ガンや突然死など個別の事象と放射線との因果関係を特定することは不可能で、この点が化学物質による公害などと全く異なります。それをいいことに、統計的に必ず表れるであろう、いや、すでに表れているであろう確率的影響に東電や国が目を瞑ることは犯罪に等しいのではないでしょうか。

 

エネルギー源としての不適格性、有害性
 次に、原発事故の問題を離れて、原発そのものの、エネルギー源としての不適格性と、有害性のうち最も深刻な問題ついて述べます。
 原発を推進ないし肯定する人たちの最後の拠り所は、地球温暖化問題かも知れません。再生可能エネルギーの開発と導入は爆発的ですが、エネルギー需要の全部を賄うにはまだ至っていません。そこに原発の出番があると言うのでしょう。しかしウランの資源量は、発熱量ベースで比較して石炭や石油に比べて圧倒的に少なく、化石燃料の中ではCO2排出が最も少ない天然ガスと比べても、その半分以下です ※4。つまり、その程度の時間しか持たないと言うことです。仮に原発を百年程度動かせたとしても、最後に述べるようにその使用済み燃料の管理が10万年以上というのでは、あまりにも世代間倫理に反し、資源としての地位を認めることはできません。
 ウランは、その大半を占めるウラン238をプルトニウムに転換する高速増殖炉があって初めてエネルギー資源として大きな地位を占めることができますが、もんじゅの廃炉に見られるように、その見通しは全くないのです。
 最後に、使用済み燃料に含まれる大量の放射能は、化学毒物などと違って無害化できません。もし無害化しようとすれば原子核反応による他はなく、たとえ原理的に可能だとしても、これに要するエネルギーも費用も途方もないものとなるでしょう。また、その過程で新しい放射能が副産物として生じるという、モグラ叩き現象も起きるでしょう。したがって、フィンランドのオンカロで行われようとしているように、10万年以上も人間の生活圏から隔離しなければなりません。日本にそれに適した場所は見つかっていませんし、あるとも思えません。つまり、日々新たに放射能を生み出す原発の運転は一刻も早く止めなければならないということです。

 

 あらゆる点で原発の稼働は不適切、不道徳であり、裁判所には、一刻も早く停止すべきであるという判断を、常識に基づいて下していただくようお願いします。

 

1  3月15日6時55から16日6時55分まで

2  公益財団法人日本分析センターのサイトによる。
 https://www.kankyo-hoshano.go.jp/01/0101flash/01010122.html
3  平成18年度 第15回広島県保健環境センター業績発表会要旨の、松尾健氏の「広島県における環境放射能調査」による。
4  ウラン資源量については、日本原子力産業協会のサイトを、天然ガスは日本ガス協会のサイトを参照。
 http://www.jaif.or.jp/cms_admin/wp-content/uploads/2015/02/uranium2014_fig&tab.pdf
 https://www.gas.or.jp/tokucho/shigen/

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20191213意見陳述豊島耕一.pdf
PDFファイル 333.4 KB

◆裁判書面(行政)

ダウンロード
20191130玄海行政原告準21●.pdf
PDFファイル 1.8 MB
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20191129玄海行訴国25準備書面●.pdf
PDFファイル 12.5 MB

◆裁判書面(全基)

ダウンロード
20191130玄海全基原告準23●.pdf
PDFファイル 1.4 MB
ダウンロード
20191129玄海全基九電準備書面18●.pdf
PDFファイル 944.6 KB

◆報道