★CHECK★【5.15行政訴訟、全基差止、仮処分裁判報告】

 5月15日、佐賀地方裁判所にてMOX以外の3つの裁判の弁論・審尋が行われました。3月にMOX不当判決を下した波多江真史裁判長が東京高裁へ異動するなど、担当裁判官3人のうち2人が交代しました。裁判官は次の通りになりました。

【裁判長:立川毅氏(福岡地裁から異動)、右陪席:不破大輔氏(東京地裁から異動)、左陪席:獅子野裕介氏(留任)】

1.行政訴訟(玄海3・4号機運転停止命令義務付請求)第5回弁論(対・国)10:30〜

 

 まず、これまでのポイントを裁判官に伝えるため、冠木克彦弁護団長が「更新弁論」を行いました。冠木団長は「佐賀地裁の玄海MOX不当判決、福井地裁の昨年の住民勝利判決と今年の仮処分決定、鹿児島地裁の川内仮処分不当決定と続いたが、勝負の分かれ目が『主張立証責任論』だった。どれも依拠しているのは伊方最高裁判決だが、玄海や川内のように国の基準にさえ合致していればいいという扱い方はおかしい。MOXのように企業秘密としてデータが出てこない中で、原告側に立証責任をかぶせたら、原告が勝てるわけがない」と指摘し、被告が「主張立証責任」を果たすようにすべきだと、裁判所に求めました。


国側代理人は今回、「第4準備書面」を提出しましたが、これは新規制基準の一般的な説明を長々とするだけ。冠木団長は「原告は地震動の二重基準(入倉・三宅式と武村式)問題を2013年11月の提訴時の訴状から主張しているのに、被告はいまだに反論をしてこず、制度の説明だけだ」と批判しました。

国は「次回は訴訟要件である原告適格を主張し、地震動問題は次々回に主張する」と、あくまで引き延ばす作戦のようです。次回期日について裁判長が「国側はいかがですか」と尋ねると、

国代理人 「裁判所の夏季休暇もあろうから9月に」と。

4か月も先!と、傍聴席からため息も漏れましたが、裁判官はこれをあっさり認めました。

原告側弁護士 「それなら時間もあるのだから、地震動問題もその時に反論してきたらどうですか」。

国代理人 「私たちとしましては、当初言っていたとおり、段階的に主張させていただく」。

原告側弁護士 「引き延ばしじゃないですか!」

...とのやりとりもありましたが、いかにも官僚的な話し方の国の言い分を裁判所はそのまま認めました。

結局、次回9月11日、次々回11月20日と決まりました。



2.<玄海原発全基運転差止請求事件>

 

第12回弁論(対・九電)14:00〜

  午前中に行われた行政訴訟に続き、ここでも更新弁論が認められ、原告側大橋弁護士が担当しました。

 提訴からこれまでの裁判の経緯に始まり、口頭弁論した8つの準備書面の要点を説き、「基本的にそれらの立証においては、伊方最高裁判例の考え方、原発データの所有が全て被告にあるところから、まず被告が十分にその資料・証拠を示しながら、これらの安全を立証していくことが必要だと考え、原告の主張と併せ被告がその主張立証責任を果たされたかどうかを、裁判所は慎重に審理していただきたい」と訴えました。


1号機廃炉決定で取り下げ!

 この裁判は、2011(平成23)年12月に1,2,4号機を対象に提訴、そして翌年1月に3号機を提訴しましたが、この度九電が10月で稼働40年を迎える1号機を正式に廃止することを4月27日決定し受理されました。これまで玄海原発の最老朽化1号機の緊急性ある危険性を原告は厳しく検証してきましたが、これによって差止請求する意義が事実上なくなりましたので、原告団はこの1号機をこの裁判の対象から外し取り下げる手続きをしました。玄海1号機の廃炉が決定して、この事件の対象物は、2号機、3号機、4号機ということになりました。しかし、廃炉作業は少なくとも30年余り掛かるということ、使用済み燃料の処分地の行先も処分方法も何も決まってないこと、脆性遷移温度98度を示した原子炉の金属疲労の理由も気になるところで様々な検証が必要だと思いますので、それぞれ目を光らせチェックしつつ対処していきましょう。


基準地震動問題 武村式でより安全側に評価を!

 さて、第12回公判は全機に共通する基準地震動の設定方式問題で、被告九電は、前回、入倉・三宅式こそ1995年兵庫県南部地震(阪神・淡路大震災)以降の日本で起きた地震のデータを取り込んだ評価式で信頼できるとし、原告の言う「武村式」は方法としてオーバーで不適であると述べました。原告反論の番になった第12回の弁論の骨子は、以下の通りです。

 

(1)    入倉・三宅式の信頼性の根拠に挙げている「震源インバージョン解析」という新予測方式は、研究途上にある方式であって相当な不確定性と相当なばらつきが多すぎてデータの入れ方によって様々な結果をもたらせてしまうので、信頼性が有るとは言えない。

(2)    武村式と入倉・三宅式どちらが基準地震評価として、安全側の評価になるのか?という点について、被告は、短周期レベルの地震による揺れの加速度においては、入倉・三宅式対武村式で1.7倍になるだけと簡単に言いましたが、様々な不確定性を考慮すると、1.7倍〜2.2倍〜4.7倍の範囲で推移する可能性あることになります。この結果から、中間値である2.2倍になるとLOCA(冷却材喪失事故)が起こり得るのです。故に、基準地震動は武村式を採用し安全側評価をしなければならないと主張しました。

さてもう一つ、「2号機配管ひび割れ事故」から始まった配管問題について、仮処分と共通していますので、次項にてまとめて報告します。

※図

3.<玄海原発2・3号機再稼働差止仮処分命令申立事件>第15回審尋(対・九電)14:30〜

 はじめに、原告団弁護団はこの度、2号機については仮処分申請から外して取り下げ手続きをしましたので報告します。


仮処分 2号機は取り下げ

 2号機及び3号機の再稼働差止め仮処分申し立ては、2011年7月7日でした。当時、福島の3.11事故からわずか3か月経過した時点で「原発は必要、もういいだろう」と政府は佐賀県・玄海町に海江田経産大臣を乗り込ませて地元同意の元に再稼働しようと、7月11日からの週にはGOサインが出るのではないかと新聞紙上を賑わせた時期でした。私たちは、一刻の「猶予なし」と直ちに準備し、再稼働ストップの仮処分保全命令を求めた次第でした。


 因みに「仮処分」とは、仮の救済など暫定的処置なので、後日、その権利については必要あれば訴訟(本訴という)で争うこととなるのです。裁判所に仮処分命令を出してもらうためには、申し立ての債権者(=原告)が、そのままに保全してもらわねばならぬ当然の権利があること、どうして保全しなくてはならないのかの必要性を主張立証しなければならない(民事保全13条)ということです。


 よって、裁判では私たち債権者は、再稼働によって住民の健康や環境や生命が脅かれる原因・状況を十分に立証することに力を注いできました。この間「緊急的危険がある、無い」と様々な主張攻防が繰り広げられてきたのですが、2号機は35年経過の老朽化原子炉施設で、九電は再稼働させるための新規制基準適合審査を受けるべく申請もしておらず、準備もしていない状態です。それは、旧基準の可燃性ケーブルの全電線を不燃性ケーブルに交換しなければ新規制基準をクリアできないことが主原因のようです。その交換の時間的、コスト的にも無理な条件を計算検討して廃止しかないと意見に傾いているのかもしれません。いずれにしても債権者としては、「保全の必要性」が無くなった今、2号機を取り下げることにしました。


 しかし3号機の条件は全く違いますし、九電もそれなりに再稼働準備をしているわけですから、今後とも「燃料問題」に「耐震問題」「配管検査問題」など含めて仮処分で闘っていくと改めて明確に主張をしています。


10年間も見落とされていた配管ひび割れ問題

 さて、前回の審理の中では、九電は私たちの求釈明に答えないまま、「結審してくれ、却下されるべきである」と要求しましたが、裁判所は「結審はできません」と改めてその求釈明回答を求めました。問題は、「タービン動補助給水ポンプに関する配管の破損によって、タービン動補助給水ポンプによる給水が出来ないと仮定した場合、原子炉を冷却する手段がなくなるが、配管の検査方法・検査結果から劣化を考慮した耐震解析結果を示せ」というものでした。福島事故のように全交流電源喪失となった場合、外部電源に頼らず蒸気を駆動源とする「タービン動補助給水ポンプ」が冷却する生命線になるのですが、その配管に常時健全性が求められるのは当然のこと、加えて2号機の配管ひび割れに10年も気付かなかった失態に対し、二次系の配管をどう検査しているのか?を求めた訳です。


 九電は、設備の概要と検査方法を今回回答しましたが、検査の結果・対応は「異常がなかったから問題ない」と簡単に片付けています。しかし、配管には原発を稼働するための重要配管から冷却用主配管と副配管、水が通る配管に蒸気が通る配管、また余剰抽出系の観測用の配管など何万本という大小種々様々な配管があって役割を果たしているわけです。九電の検査は、流体や気体を流す漏えい検査から超音波による肉厚測定検査、実測定及び外観検査には叩くとか目視だけの場合もありますし、人が触ることも見ることもできない箇所も存在しているはずです。


 しかし、九電のこの回答によると「特別な検査時や緊急時にしか使用しないため通常は流れるモノもなく存在しているだけなので、検査する必要はないが、それでも念のため実施しており、2号機で見つかったようなひび割れが結果破損してしまっても事故に繋がる可能性は低いので問題ない」などと述べ、新規制基準においても、配管材料など従来と何も変わらず適用されるというのです。私たちは、このような姿勢の事業者に原発という超危険施設を任せることはできない、このような驕りは必ずまた事故を起こすと危惧します。

 しかし、九電は3号機MOX燃料の安全性について、裁判で原告主張が棄却されているように重大事故に至ることはない述べ、「保全の必要性ナシ」本件仮処分は却下されるべきだと述べました。


 私たちはこれに決して屈しません!今後3号機は、全基裁判でも仮処分でもMOX控訴審でも闘っていきますし、玄海原発を再稼働させない決心は揺らぐものではありません。次回以降、2号機を仮処分から除外しても論点の本質は何も変わらないので、3号機の「保全の必要性」を配管劣化問題、LOCA対策、過酷事故対策の不備、基準地震動の設定評価方法の間違い「武村式対入倉・三宅式」等々主張してゆく予定です。