井野博満先生、「市民のチカラで原発ゼロへ」を呼びかけ(佐賀県議会傍聴報告)

12月13日、佐賀県議会原子力特別委員会は、井野博満・東京大学名誉教授を参考人招致しました。

井野さんは、原発推進の自民党議員が8割を占める県議会の場において、「原発は危険で危険で汚いエネルギー。再稼働は暴挙。技術的に可能な安全対策はすべて実施すべきである。そして、完全なる対策は玄海原発を廃炉にすること。即時原発ゼロしかない!それを実現するのは市民の力!」と訴えました。

いつもはストレスばかり溜まる県議会ですが、今日はとてもスカッとしました。

 

●完全なる安全対策は原発廃炉!

冒頭の1時間は、まず井野さんのパワーポイントをつかったレクチャー。

・最高水準どころから最低水準

・規制基準は安全を保証しない。ならば、誰が責任をとるのか。被害を直接受ける住民や自治体が議論を尽くして判断すべき。

・玄海原発の過酷事故時の本質的問題点=炉心溶融を防ぐ手段はないということ。対策がすべて「付け焼刃」である。

・技術的に可能な対策はすべて実施すべきである。そして、完全なる対策は玄海原発を廃炉にすることである!

・原発を存続させるかどうかは、地域住民・自治体の意見をふまえるべき。その際に科学的議論を公開の場で行うべき

 

これ以上、わかりやすい説明はないのではないかというぐらい、明快なお話でした。

パワポ資料と、原子力市民委員会の中間報告冊子が、県議全員と、傍聴者全員に配布されたことも、すばらしいことです。

数日後から佐賀県議会HPにて録画アーカイブが見れます。DVDにも落とそうと思います。 

※当時配布されたパワーポイント資料は、このページの下からダウンロードできます。

 

●市民の常識、市民のチカラを!

質疑は、自民党、共産党、民主党の議員が会派代表質問を行い、残り時間にいくつかのフリー質問がありました。

印象に残った井野さんの発言は−−

・技術的には即時原発ゼロだ!

・オープンな議論のうえ、市民が判断を!

・設計基準は見直さず、まるで、壊れそうな船に、救命ボートをたくさんつけているだけ。

・「完全に安全」に近づける努力もなしに、「完全に安全はない。そのことを認めろ」と安易に言われても困る。

・市民の常識が、専門家の常識でなかった!

・専門家として理は尽くしてきたつもり。あとは市民のチカラ!

 

自民党議員は、緊張隠しのためか苦笑をしながら、おそるおそる質問したことに対して、井野さんはズバリ答えられました。

最後に、「自民党にも脱原発の党へと変わっていただきたい。」としめくくった時には、傍聴席から思わず拍手も!

 

【質疑の一部紹介】

・自民党:脱原発は「すぐ」なのか、徐々になのか。

井野さん:技術的に言えば、即時原発ゼロが望ましいが、それは市民が決めること。玄海であれば玄海の住民、佐賀県民が決めていくものだ。

 

・自民党:先生は「原発のリスクはゼロにすべき」というが、リスクはゼロになることはないとみんな思っていると思うが、どうなんでしょうね〜。

井野さん:「多くの人はリスクはゼロにはならないと思っている」というが、福島事故の前は、みんな「ゼロ」と思っていたし、そういう宣伝をしていた。「そんなことはない」と私達をせせら笑った。スリーマイルでは「日本ではそんなことは起きない」、チェルノブイリでは「あれは社会主義。炉型も違う」と。

「リスクはゼロ」だとして進めてきた、今までやってきたことをすべてご破算しなければならない。なのに設計基準はそのままだ。じゃあ、リスクが小さければ再稼働していいのではないかという考えもあるが、限りなくゼロに近づけるための対策を立てているのか。できる限りのことをやったのか。これらをオープンに議論して、それでもやるのかどうかという判断を、市民がすべきである!

 

・自民党:新基準の何が問題でしょうか、わかりやすく〜。

井野さん:設計基準では単一故障しか想定されていない。新基準では、設計基準見直しはなかった。その代わりに、過酷事故対策。つまり、大元は変えないで、応急措置だけ。船が沈みそうだというのに、船そのものを直さないで、救命ボートをたくさんつけただけだ。

福島を踏まえた対策になっていないということが基本的な問題だ。

 

・民主党:そうは言っても規制委員会、新基準は改善されたところもあるだろう。規制庁は完全に安全とはいえないとも言ったが、どうなのか。

井野さん:今までは設計基準を超える事故については、なんの基準もなかった。事業者の自主的な対策のみで、「事故の確率は低い」ということで、結局、事業者はほとんど何もしなかった。法律によって対策をしなければいけなくなったという点だけは改善。だけど中身は不十分だ。

そして、規制庁が「完全に安全とはいえない」というと、良心的にみえるかもしれないが、「完全に安全」に近づける努力なしに、それを認めろということだ。安易にいってもらっては困る。規制庁は安全とはいわない。政治家も責任とれない。安全は誰が担保するのか。地元なり市民なり国民なりの判断がちゃんとないといけない。きちんとした議論の場をつくるべき。

 

・民主党:福島事故の教訓は何か。

井野さん:一番の教訓は、この事故によってたくさんの被災者が出たということ。その苦しみが非常に大きい。立地地元は数十年、帰還が不能。事故の全貌も、被害の全貌もまだわかっていない。チェルノブイリは27年経っても、いまだに因果関係も諸説ある状態。こういう事故を二度と起こしてはならないと。それが一番の教訓だ。

 

・民主党2:先生の言われる方向へ進めるのはどうしたらいいのか。

井野さん:私は専門家委員会などでも理を尽くたつもりだが、残念な結果だった。あとは、市民運動の力なり、県議会の力でやってほしい。

 

・無所属:設計における共通要因事故の想定を、なぜ設計基準の見直しでしなかったのか。

井野:それが市民の常識だが、専門家の常識ではなかった。事故要因が10あるとすると、2つだめになる想定をするとなると10×10=100か所を想定しなければならなくなり、全部やろうとすると、大変な手間になる。見直しをしてたら、日本の原発を動かせなくなるという配慮があった。

 

<自民党議員はフリー質問の時に、1人だけ「事実確認」をしただけで、後は質問一切なし。ベテラン議員は最後列で(傍聴席に一番近い)、よく眠っておられました。民主党議員は九電の経営、玄海町の「景気」を気にかけていました。>

 

 

●傍聴室はいっぱいに

同委員会は、全県議が委員です。知事らも勉強しにくればいいのにと思いましたが、来てませんでした。

市民があちこちに呼びかけたことで、傍聴者は久しぶりにいっぱいとなり、委員会室の傍聴が35人までだったので、残りの人は別室で映像視聴(2年前、音声だけたったのを、要求を出して、映像視聴をかちとりました)となりました。別室に人には資料も配布されなかったので、これも要求して、配布させました。また、委員会室のマスコミ席が20席も空いていたので、これも市民傍聴者に開放するよう要求、はじめは渋っていましたが、実現しました。何事も市民が言わなければ、一般社会では常識的なことが進まないのが議会です。

 

●全国に先駆けて!?

この2年半、佐賀県議会原子力特別委員会は、古川知事の「やらせメール」事件を延々扱ってました。(いまだ決着していないこの問題を終わらすには、知事に早く辞任してもらうしかないんですけどね。)

井野さんには今年6月に佐賀におこしいただいた時に、裁判の会事務所での懇談会と、議員有志の学習会に応じていただきました。

(2年前の7月17・18日に佐賀・唐津で連続シンポジウムでお招きして以来、いつも気にかけていただいています。)

7月に九電が再稼働審査申請をし、再稼働へ向けた策動が進められる中、9月3日に私達は同委員会委員長に対して「原発の安全性について、原発に慎重な立場からの専門家の意見を聞く場をつくってほしい。井野先生を推薦する」と要請を出しました。

2週間後、委員長は「前向きに検討する」と、わざわざ回答の場を設けました。マスコミも注目してくれましたが、世論を非常に気にしているようでした。

あれから、3ヵ月半を経て、ようやく実現したのです。

県議会という場で、原発に明確に反対の立場の専門家にこうした形で意見表明していただけたことは画期的で、日本で初めてじゃないかと思います。

「日本初のプルサーマル」と「3.11後最初となる再稼働策動(“やらせ”で挫折)」という汚名をかぶせられてしまった佐賀県民として、脱原発へ向けて、どこよりも先んじて、こうした取り組みをできたこと、嬉しく思います。

大事な一歩となりました。

 

●市民のチカラの結集させて、一歩ずつ前へ!

しかし、これも、再稼働派は「反対派の意見も聞く場はつくったよ」という“アリバイ”と位置付けているかもしれません。

そうはさせまい!

井野先生が言われたように、「規制委員会は安全を担保しない」。

それでも県議会や知事が再稼働を容認するというのなら、県民の命に対して、責任を持つ覚悟はあるのか!ということです。

この重大な責任をしっかり認識した上で、オープンな場での議論を、今から時間かけてやっていくべきです。

私達は古川知事に要求します。

玄海原発再稼働について、県内各地で、オープンな議論を、時間をかけてやること!

独りよがりの判断でなく、県民の総意としての判断をすること!

そして、玄海原発事故の影響を受けうる、佐賀県以外のすべての市町村でも、オープンな議論の場を求めていきましょう!

 

井野さんは別れ際に「みなさん市民の力でここまでこぎつけました。学者もやっぱり市民と一緒に運動しなければだめですね!」と言われました。「市民とともにあらん」とする科学者としての良心を示していただいた井野さんに対して、今度は私達市民がこたえなければなりません。

丸1日、質問を浴び続けながらも、明快に丁寧にお答えになった井野先生に心から感謝いたします。

さあて、再稼働阻止へ向けて、県庁・県議会での闘いも、重要な局面に入ってきています。

チカラを結集させて、一歩ずつ前へ進みましょう!

 
ダウンロード
2013年12月13日佐賀県議会参考人陳述 井野満博
佐賀県議会参考人陳述最終版修正.pptx
Microsoft Power Point プレゼンテーション 1.7 MB

原子力市民委員会の中間報告もごらんください!

井野満博先生も委員である「原子力市民委員会」の中間報告がまとめられています。井野先生は第4部会:原子力規制部会の部会長をつとめておられます。
ぜひこちらからごらんください!(原子力市民委員会のサイトへ)

「原子力市民委員会」では、市民グループや自然科学・社会科学・人文科学にわたる幅広い科学者、技術者、弁護士などが、この局面において市民が取り組むべき課題について検討を行い、この度、脱原発社会を構築するにあたっての課題を把握・分析し、政策をつくっておられます。
4つの課題に取り組み、「脱原子力政策大綱」をまとめ、その成果を広く市民に伝えるとともに、関係機関(主に復興庁、原子力委員会、総合資源エネルギー調査会、原子力規制委員会)等に提言が行われています。

<原子力市民委員会が取り組む4つの課題>:
 ・東電福島第一原発事故の被災地対策・被災者支援をどうするか
 ・使用済核燃料、核廃棄物の管理・処分をどうするか
 ・原発ゼロ社会構築への具体的な行程をどうするか
 ・脱原発を前提とした原子力規制をどうするか